今月の返済もしっかりできているし、このまま順調に返済していけば普通の生活に戻れる。
ショウと過ごしたあの幸せな毎日を取り戻すことが出来るんだ。
完済することが出来た時には、ちゃんとショウに謝ってもう一度やり直させてもらう。
今度は隠し事なんかしないし、ギャンブルだってたしなむ程度にするつもり。
でも、あれから一切連絡が取れないから話したくても話す機会がない。
ため息をつきながら、仕事をしているとサツキとマキがやってきた。
マキも仲のいい友達の一人。
「最近、元気ないじゃない、どうしたの?」
「ううん、何でもない。
ちょっと疲れているだけだから」
「そう?
私は今日、レストランで彼氏とディナーなの」
「そっかぁ、順調で何よりだよ~」
いいなぁ、サツキは幸せそうで。
私がうまくいっていた時は仲が悪そうにしていたけど、私が別れてからうまくいって。
あるよね、入れ違う事って。
今まで他人をうらやましいなんて思ったことないけど、今回ばかりはうらやましいな。
仕事をしながら、ため息が出てしまう。
今日はパチンコをしないで残業して帰る日にしている。
少しでも多く稼いでおかなくちゃね。
返済を早めに終わらせたいし、いつまでも長引かせるのも良くないし。
サツキはデートの為先に帰っていき、私は残業で残った。
残業と言ってもそんな難しい仕事をしているわけではないから、大したことない。
残業を始めてから、仕事をそつなくこなしていくが出来るようになった。
周囲からの評判も良くなって、私は仕事が出来る人間として周囲から一目置かれるようになった。
「お疲れ様、雪城」
「お疲れ様です!」
私は上司や営業の人達に挨拶をして帰った。
何だか今日は普段よりも充実した日々だったような気がする。
仕事をしたなっていう気分。
普段仕事を真面目にしていないとか、そう言うわけではないけど。
なんだろう、この充実感。
「今日は仕事頑張ってたね、このみ!」
「うん、今日は我ながら頑張ったと思うよ」
マキと話しながらキラキラした街の中を歩いていく。
私は電車で通っているけど、マキは自転車で通勤している。
駅の途中まで同じ道だから、時間さえ合えばこうして一緒に帰っている。
私は街を歩いて、周囲のネオンを眺めていた。
ついパチンコ屋のネオンに目が行ってしまう。
お客が入っていくと同時に、パチンコ屋のガヤガヤ音が聞こえてきて誘われそうになる。
パチンコかぁ・・・やめられるようにしないと。
「じゃあ、私こっちだから。
ばいばい、このみ」
「うん、また明日ね」
そう言って、マキと別れた。
マキはいつも元気だよなぁ・・・彼氏がいてもいいのにいない。
女子力高いからモテそうなのに、もったいない。
それに比べて今頃、サツキは彼氏とディナーデートか・・・いいなぁ。
あーあ・・・本当私の人生どうなっちゃったんだろ。
独りで色々考えながら歩いていると、あるレストランが目に入ってきた。
わぁ・・・高級そうなレストランだな・・・。
窓ガラスが大きくて、店内が見えるようになっていておしゃれだった。
「え・・・うそ、でしょ・・?」
私の目に飛び込んできたのは、ショウとサツキの姿。
二人とも楽しそうに食事をしている。
なに・・・どうなっているの?
サツキ、今日は彼氏とディナーだって・・・え?
もしかして、サツキの彼氏がショウだったの・・・?
・・・わからないよ、なに?
じゃあ、今まで話していたあの彼氏の話って・・・ショウのことだった?
サツキはそれをわかっていて、私に話していたわけ・・・?
私が混乱していると、食事を終えた二人がレストランから出てきた。
目の前で見事に鉢合わせ。
二人も私を見て驚愕し、一瞬固まっていた。
「あら、このみじゃない。
いい機会だから紹介するわ、こっち私の彼氏のショウなの」
「待って、私とショウが付き合っていたんでしょ?」
「やっぱり何も知らなかったんだ?
ショウはずっと私と付き合っていて、あんたとは遊びだったのよ。
可愛そう、同棲ごっこまでしてたっていうのにね」
なに・・・なにが起きているの?
ずっと二人が付き合っていたって・・・そんなわけ・・。
でも言われてみれば、ショウの帰りが遅い時が何度かあった。
それはサツキと会っていたからなの・・・?
ずっと・・・ずっと私をからかって馬鹿にしてたの・・・?
同棲ごっこってなに?
ショウは何も言わずに立って私を見ている。
何か言ってよ・・・。
「私、借金完済したらショウとやり直すつもりだったのに・・・。
裏切るなんてひどいよ・・・!!」
「ショウは私のものだから、あんたに渡さないわ。
それに、本当はギャンブルして借金までしてるんでしょ?
女でギャンブラーとか最低ね」
「・・・っ!!」
それでも何も言い返せなかった自分が、情けなかった。
最低なのかは知らない。
だけど、ギャンブルしていることも借金していることも事実だから。
事実だから、何も言い返すことが出来ない。
私の事を最低だと言うけど、私をだましていた二人も最低だと思う。
二人は腕を組みながら、私の横を去って行った。
こんな・・・こんな、仕打ちってある?
何も知らなかったのは、私だけ?
そもそもサツキには一切話していないのに、どうして知っていた?
視線を感じて、私は後ろを振り返る。
そこには・・・ナギトさんが立って私を見ていた。
あぁ、そうか・・・、そういうこと?
「あなたがサツキに教えたんですね・・・最低!
人の人生めちゃくちゃにして、楽しいわけ?」
「俺はただ真実を伝えたまでだよ、悪いことなんかしていない。
それに、あの二人は昔から付き合っていた、君が知らなかっただけだよ」
ムカつく、本当に・・・ムカつく。
何が真実を伝えただけ、だ!
この人が本当に嫌な奴に見えてきた。
悔しくてどうしようもなくて、私は俯いて唇を強く噛みしめた。
現実はどうしていつもこうなの?
あぁ・・・何だか泣きそうだ・・・。
何もかもうまくいかない・・・。
ショウとやり直せると思って、借金も真面目に返し続けて頑張っていたのに。
その意味もなくなってしまった。
何のために、私はギャンブル克服しようとしていたの?
「泣いてるの?
好きなだけ泣いて、またギャンブルでもやればい・・・」
「・・・あははははっ!!」
思わず笑いがこぼれて、大声で笑った。
さすが現実って感じ、この無慈悲な感じがさ。
笑い出す私を見て彼が驚愕して黙り込んでいる。
目的がなくなったなら、またギャンブルできるじゃん。
もう誰にも指図なんかされないし、私は自由の身になったわけだ。
ギャンブルにハマりだして借金まみれになると、彼は言った。
だったら、いっそのことその期待に応えてやろうか。
その方が面白いんじゃない?
私だって自分がどのくらい壊れるものなのか、知りたいくらいだ。
「じゃあ、早速パチンコでもやりに行こうかな。
いっそのこと、あなたの期待に応えてあげるよ」
「君は他人とは違うって言ったじゃ・・・」
「は?そんなこと言ったっけ?
そこ邪魔、パチンコやりに行くんだからさっさとどいて」
そう言って、私は彼の横を通り通常通りパチンコ屋へと向かった。
私の努力って何だったんだろう・・・意味なかったのかな。
もうなんでもいいや、この先の未来に幸せが待っていても克服なんかしなくていい。
今が楽しければもう、それでいいや。
余計なこと考えたくないし、マズくなったらちゃんと手を打てば誰にも迷惑だってかけない。
今からもう既に色々考えているから問題ない。
そのまますたすた歩いていく私の後を、彼がしつこく追ってくる。
「待てって、俺に宣言したじゃないか!」
「もういいよ、私も今までの連中と同じ分類に出来て良かったね」
しつこいな、放っておくとか気を使えないわけ?
この人は一体何をしたいのか、私には理解できないししたいとも思わない。
これからは自由気ままにギャンブルをして楽しもう!