この先、俺はどうなってしまうのだろうか。
ギャンブルに誘われてから、ハマってしまい今では軽く借金をしてしまっている。
最初はほんのお遊び程度で始めたと言うのに、今ではすっかりこんなにのめり込んでしまって頭を悩ませている。
今までギャンブルをやめようと思った事は無く、ただ思うが儘にギャンブルをして来た。
パチンコ、競馬、カジノ、競艇、競輪。
ありとあらゆるギャンブルに手を出しては、負け続けている。
時には勝負に勝って大金を手に入れることもあったが、すぐ次のギャンブルに使ってしまいあっという間になくなってしまった。
俺は手にしていた雑誌をテーブルの上へと放り投げた。
その雑誌はとても有名なもので、雑誌のページには、俺のことについて掲載されていた。
“人気レストラン神宮寺春輔<ジングウジ シュンスケ>の店”と。
実は、俺は人気レストランのシェフをしているんだ。
こう見えて、ちゃんと海外に留学をして本場の味や技術を習得してきた。
今まで何度も、多くの賞を受賞したりもしてきた。
その俺が今では、ギャンブラーとして毎日ギャンブル三昧。
世間体があるから表向きはシェフとして頑張っているが、その皮をはがせばただのギャンブラー。
「って言ってもやめられないんだよな・・・」
辞めようと思った事は無いけれど、やめられないと思う。
ギャンブルってきっと麻薬の一種で、一度ハマってしまうとなかなか抜け出せないんだよな・・・諦めようちすれば大当たりが出るんだから。
俺は自分の店を構えているし、毎日予約してくれる客が居るから生計を立てることが出来ている。
ただ、ギャンブルの方にハマりすぎて、最近仕事中も常にギャンブルの事を考えている始末。
何がマズいかって、料理長である俺がギャンブルばかりして考えている事だ。
本物のギャンブラーに比べたら、俺はまだだいぶマシなんじゃないかと思う。
こうして毎日仕事をこなしているし、借金だってまだ少額しかしていない訳だから。
ギャンブラーなのに完璧なギャンブラーとしてなり切れていないから、中途半端。
そんなことを考えながら、俺はライスコロッケを油の中に入れて揚げていく。
うちの店ではライスコロッケのトマトソースが人気となっている。
女性だけではなくて男性からも支持されている。
今日もライスコロッケのオーダーが入り、いつも通り手際よく作っていく。
忙しい事もいつもの事だから慣れている。
俺も料理を手にして、テーブルへと運んでいく。
「あら、やっと来たわね。
空腹過ぎて倒れそうになったわよ?」
「また来たのか、よく来るな」
「神宮寺くんが作るライスコロッケは絶品ですから。
もちろん、この料理以外も絶品だと私は称賛しているけどね」
彼女は青野ことり。
青野は高校時代からの友人で、一緒の科目を選択し同じ調理学校へ進学した。
だから青野も俺と一緒で料理が出来る。
料理の腕は俺と同じくらいか、少しだけ劣る程度。
それでも、一生懸命作っている姿を知っているから、悪くないと思うし良い姿勢だと思う。
こうしてよく俺の店に来ては、色々な料理を頼んで、料理そのものを味わい楽しんでいる。
まるで評論家みたいなことをしてくれている。
それに、何が足りないのか、何を加えたらもっと良くなるのか的確に意見してくれるから、とても助かっている。
俺では気付けないことに気が付けるっていうのが、すごいといつも思っている。
やはり、女性にしか分からないこともあるのだろうか。
「神宮寺くん、何か顔色悪いけど大丈夫?
この間も顔色悪かったじゃない」
「そんなことないぞ。
ただちょっと疲れているのかもしれないな」
「ちゃんと休むようにしなきゃ駄目よ?
あなたがいないとこのお店は回らないんだから」
青野が心配そうな表情をしながら言う。
昔から何かと鋭いところを突いてくるんだよな・・・。
そんな顔色悪いのか?
気になるから、この後鏡を見て確認しよう。
ただ、ふと青野の皿を見ると綺麗に平らげていた。
食べるのが早いと言うか、本当綺麗に食べてくれているのが見てわかる。
他の客はもう少し残っていたりするが、見事な食べっぷり。
よく見ると、青野の口元にはトマトソースがついていた。
「青野、ソース口についているぞ」
「つけてるのよ!」
「何のために?」
「・・・ばか!」
いきなり青野が怒って、口元をティッシュで拭う。
そんな怒ることないだろう、と言おうとしたがこれ以上青野の機嫌を損ねたら面倒になると思って、俺は何も言わずただ笑っていた。
昔から青野は気が強くて男子をまとめるのがうまかった。
話し方は女性らしいんだけど、言い方がきつい時もある。
いい奴なんだけど、だから彼氏が出来ないのかもしれない。
料理もうまいから、相手が作ってくれた際に口を出してしまうと言っていた。
アドバイスだったとしても、それは厳しいかもしれない。
俺たち料理人に対して言うならありがたいことだが、一般人には言わない方がいいと思う。
「ところで、お客さんがたくさん入っているから景気がいいんじゃない?
ますます名が知れてしまったら、私も来られなくなりそう」
「ああ、そうかもしれないな・・・」
「?」
実は、もう赤字経営になってしまっているんだ。
確かに客がたくさん来てくれているから黒字経営だと思っているかもしれないが、俺はとうとう自分の店の金に手を付けてしまった。
ギャンブルがやりたくて仕方がなく、ついつい手を出してしまった。
最初は少しだけだからすぐに返せると思っていた。
しかし、現実はそんな簡単ではなくてシビアなものだった。
ちょっとくらいいいだろう。
その考えでまずます自分がダメになっていくのを感じている。
改善したくても意志が弱いため、改善がなかなか出来ない。
そもそも俺は、本当にギャンブルを克服したいと思っているんだろうか。
そこからして謎なんだよな。
借金をしているが特に危機感なんてないし、まだ大丈夫だと思っている。
大した金額じゃないから、すぐに返せる。
「神宮寺?」
「ああ、悪い・・・何でもないんだ」
「なんか本当に顔色が悪いわよ?
何でもないならいいけれど、ちゃんと休める時に休みなさいよ」
「ああ、ありがとう」
顔色が悪いのは、この店の金に手を付けてしまい赤字経営にさせてしまっているから。
全く罪悪感が無いと言うわけではない。
申し訳ないと思っているが、元は自分の店だからと思ってしまい大した問題だと感じていないのかもしれない。
それがマズいんだろうけど、俺にはまだ危機感が無い。
そして、青野が会計を終えて店を後にした。
青野の眼は鋭く、何もかもを見通しているようで何だか恐ろしく感じる。
あの眼で問い詰められてしまったら、俺はもう嘘なんかつき通せない。
まるで獲物を狩るような眼つきだから、ついつい萎縮してしまう。
とにかく今回はまだ気が付いていないようだから、安心かもしれない。
今日の営業も終わり、従業員たちを残して俺は先にあがらせてもらった。
何をするために上がったのかって?
そんなのギャンブルするために決まっている。
俺は早速、パチンコ屋へと向かった。
夜になればパチンコ屋のネオンが目に飛び込んでくる。
俺はその店に吸い込まれるかのように入っていき、当たりが出そうな台を探していく。
どんな台がいいのか、俺にはまだ見極めることは出来ない。
「ったく、難しいな」
とりあえず、気になった台に座り打ち始めていく。
その台は、人気ゲームの台で何だか勝てるような気がして来て、財布を取り出す。
千円札を入れて、ガチャガチャと回していく。
溢れんばかりのパチンコ玉が出てきて、俺は夢中で続けていく。
本当に今日は調子がいいような気がする。
いつもは全く当たりなんか出ないのに、今日は少しずつ出てきている。
もしかしたら、大当たりを出して勝てるかもしれない。
確証なんかないけど。
その瞬間だった。
“♪♪♪~”
曲が流れて俺は画面を見た。
底にはスロットが映し出されていて777と出れば大金が手に入る。
俺は何度も7が来ることを望みつつ、画面を見守った。
「7来い、7、7来い!
7―っ!」
俺は馬鹿みたいに叫び続けた。
だが、馬鹿みたいに叫んでいるのは俺だけじゃないから安心だ。
他にも叫び続けている人達がいるから、俺はどうってことが無い。
その時、再び音楽が鳴り響いた。
お・・・画面を見ていると、777と揃っていた。
・・・・!!
俺は驚きながらも喜んで、あふれ出るパチンコ玉をケースで受け入れた。
久々過ぎて、思わず手が震えてしまっている。
これが武者震いというものなんだろうか?
何だかよく分からないが、換金したらいい値段になると思う。
今日はツイている!
この調子でもう少しパチンコをやっていこうか悩む。
もしかしたら、更に儲かるかもしれないから賭け金にでもしてみるか・・・!