結局、俺は自分で自分の店を潰して、仕事を失ってしまった。
働かなければいけないと思っても、何だか探す気力が無い。
頑張ろうとかそういうやる気すら起きない。
ギャンブルが出来ないと言うのが、何よりもつらい。
今後どのようにして、ギャンブルの資金を調達すればいいんだ?
派遣の仕事は給料がいい場所もあるが、その分拘束時間も長い。
ギャンブルする時間を邪魔されるのは嫌だから、そういった仕事はしたくない。
今は、銀行から融資してもらっているから当分は困らない。
銀行は規制が無いから、好きなだけ借りられる。
どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。
もう少し早く気付けたなら、何か変わっていたのかもしれない。
「なぁ、この間のバイトどうだった?」
「ああ、まぁ忙しかったけどその分給料は多かったよ。
すぐに使うのが俺の悪い癖だから、今は銀行に預けてる」
「銀行って言っても、すぐATMで引き下ろせるじゃないか。
それじゃあ、意味ないんじゃないか?」
「そうなんだよな・・・どうすればいいんだろ」
近くの席に座っている大学生たちが、そう話している。
大学生でもちゃんとバイトをして働いているって言うのに、俺は何もしていない。
働く気力が無いから。
ただ、毎日ギャンブルをして楽しみたいんだ。
それが出来れば何も望まない。
ギャンブル三昧出来ること、それが俺の一番の幸せなんだ。
大学生たちももらった給料をすぐに使ってしまうと話しているから、俺だけじゃないんだ。
やっぱり好きなことに使わないと、ストレスが溜まってしまう。
そんなことを考えながら、俺はコーヒーを口にした。
金に余裕がないから、コーヒーしか飲めない。
いつもはコーヒーとサンドウィッチとか注文しているんだけどな。
それが今では出来なくなってしまっている。
だが、金が欲しかったら銀行から借りればいいだけだから、大した問題じゃない。
困ったら銀行に頼ればいい。
「お客様、コーヒーのおかわりはいかがでしょうか?」
「お願いします」
そう言って、ティーカップにコーヒーを注いでもらう。
とても熱くて美味しいコーヒー。
俺はティーカップを口へと運び、平然と飲んでいく。
次第に日が暮れてきて、俺はカフェを後にして繁華街を歩いていく。
少しずつネオンが付き始めて、パチンコ屋の看板が目に飛び込んでくる。
小遣い稼ぎにちょっと寄ってみるか。
俺はそのまま吸い込まれるかのように、パチンコ屋へと入った。
この間、結構ツイていたから今日も運がいいかもしれない。
そう思いながら、俺は目ぼしい台を探した。
やっぱり、この間の台がいいだろうか。
この間使っていた台を探していくと、すでに他の奴が座りうっていた。
くそ、あいつさえいなければ俺がその台を占領できたと言うのに・・・!
悔しさがこみあげてきて、俺はその台に座る人物を遠目で見ていた。
しかし、一向に当たる気配がなく逆に損ばかりしている。
「あの台最悪だな・・・俺占領できなくて正解だったんじゃないか?」
本当に損ばかりしていて、座っている人物が怒り狂うかのように暴れている。
さすがに店側もこれはまずいと思ったのか、止めに入った。
それでもまだ怒りが治まらず、暴れ酷い言葉を店に向かって言っている。
俺も頭に来ることがあるけど、あんなふうにはならない。
あれじゃあ、ただの恥さらしじゃないか。
あんな真似、俺はしたくない。
そう思いながら、違う台を探して落ち着くことにした。
とにかく、あの台では何も出来ない。
損ばかりして、イライラするだけだ。
俺は千円札を入れて、早速打ち始めた。
軽快な音楽が流れ、玉の転がるいい音が聞こえる。
この音が聞きたくて、パチンコ屋に来てしまうんだよな。
「この台調子いいのか?」
「ふ、藤崎!どうしたんだ、こんなところで?」
「ああ、暇だったから来たんだ。
そしたら、お前が居たってわけさ」
そうだったのか・・・いきなり藤崎が現れるから驚いてしまった。
藤崎はパチンコをあまりしないと言っていたから。
それなのに、こんな場所にいるものだから驚いた。
パチンコはちまちましているから、藤崎には合わないのかもしれない。
もっと大金を手に入れやすい方法の方が、藤崎は嬉しいんだろう。
それから俺たちは、あの裏カジノの話を始めた。
あれから、藤崎は毎日のようにあの裏カジノへ通い、ギャンブルをしているみたいだ。
ギャンブルできる金があるなんて、うらやましい。
どこからそんな金を調達しているんだろうか?
「なぁ、藤崎はどこから資金を調達してきているんだ?」
「消費者金融だよ。
そろそろ、総量規制で難民になりそうだけどな。
そういう神宮寺はどうなんだ?」
「俺も最初は消費者金融だったが、先日返済できなくて店を奪われたんだ。
もう消費者金融は利用出来ないから、銀行に頼っているところだ」
「・・・銀行か!」
藤崎が一瞬にやりと笑ったような気がしたが、気のせいだろうか?
何の笑みだったのかよくわからないが、気のせいだろうな。
銀行は規制が無いから、自分の好きなだけ利用することが出来る。
そう言ったら、藤崎が笑いながらギャンブルが楽しめていいじゃないかと言った。
確かにその通りだと思う。
ギャンブルが楽しめない、それは俺にとっての地獄だと言っても過言ではない。
だから、銀行から今30万円借りているんだ。
もちろん、返済もしているが僅かすぎて金融機関も怪しく思っているかもしれない。
本来、安定した収入の無い無職の人間は金を借りられない。
返済する金を持っていないと判断されるから。
そう、つまり、俺は今嘘をついている状態なんだ。
いつまでも通用するとは思っていないから、やっぱり仕事を探さなくては。
家の近くにパン屋があって、確かそこはアルバイトの募集がかかっていたかもしれない。
パン屋の製造なら朝早い時間帯のバイトだから、時給も極めて高いと言える。
他にもオプションが付いたら、もっともらえるかもしれない。
「藤崎、お前何の仕事をしているんだ?」
「俺?俺は工場の作業だけど?
朝8時半から夕方5時までだから、夜は時間あるんだよ。
今日もさっきまで作業してたんだ」
確かに、工場の仕事は朝が早くて終わるのも早い。
それだったら、ギャンブルする時間もあっていいかもしれない。
朝から夕方まで働いて、夜はギャンブル。
そんな生活ならちょうどいいかもしれないな。
ギャンブルできるなら、働いてもいい。
工場の事も視野に入れつつ、まずはパン屋のバイトが先だよな。
工場は給料があまり高くないから。
俺は、藤崎と別れてパチンコ屋を後にした。
今日も午後8時までパン屋がやっていると覚えているから。
こういう話は、早めにしておくのがいいと思って。
俺は早歩きでそのパン屋へと向かって歩いていく。
本来なら、電話をしてから伺うべきなんだが、そんな余裕は今の俺にはない。
「突然、お伺いして申し訳ございません。
店長さんはいらっしゃいますでしょうか?」
俺はパン屋へ着き、店長がいるのかどうか尋ねた。
すると、店長が出てきて俺を見て驚愕した。
実は、俺の店がつぶれてしまったことが、雑誌に取り上げられてしまったから。
俺もまさかあんな大々的に特集されてしまうと思っていなかったから、正直驚いた。
ギャンブルの事を話すわけにもいかず、俺は家の事情で店があんなかたちになってしまったと話し、もし良ければパンの作り方を勉強したいと申し出た。
最初は断られるだろうと思っていた。
いきなり押しかけてきて雇ってくれと言っても、出来るわけがない。
履歴書も持ってきていない状態だから。
俺は深々と頭を下げて、店長に頼んだ。
「神宮寺さん、顔を上げて下さい。
あなたを雇いさせていただきますので、どうか顔を上げて下さい」
「雇っていただけるんですか?」
「もちろん、私もあなたから教わりたいことがあるんです。
どうでしょう、明日から来ていただけませんか?」
「分かりました、明日から出勤させていただきます。
本当にありがとうございます」
俺は再び深々と挨拶をした。
時間は午前中だけという事になった。
それでも店長は快く承諾して、納得してくれた。
その笑顔を見ていると、何だか胸が痛んだがギャンブルの方が大事なんだ。
これでギャンブルできる資金を調達することが出来る。
その安心感からなのか、俺は肩の力を抜いて店内を見回した。
よく見れば、美味しそうなパンが並んでいる。
これから少しずつ、この店に並んでいるパンを覚えていかなければいけない。
内心、面倒だと思いつつもギャンブルが出来ると思えば吹き飛んだ。
こんなことを考えている俺は、嫌な奴だろうな。
常にこうしてギャンブルの事しか考えていないのだから。
「神宮寺さん、期待していますよ!」
店長がそう言って、俺の肩をポンポンと叩いてきた。
俺は真面目に働こうとは思っていないんだが・・・なんてことは決して言えない。
誤魔化すかのように俺は、はははと笑った。
こんなんで本当に俺は大丈夫なんだろうか?
まぁ、ここでクビにされたら工場へお願いしに行けばいいだけのことだ。